腎がんなんて俺の人生に何の関係もないと思っていた

平成30年に腎がん(腎臓がん・腎細胞癌)が発覚してから、僕の治療と生活と仕事の記録

セカンドオピニオン、転院

腎がん手術後から半年後のCT検査で、摘出後の組織に再発があることが判明した。8センチと2センチほどの大きさの腫瘍が二つ、画像に写っていた。

医師から提示されたのは、2種類の薬物療法。一つは分子標的薬、もう一つは免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法である。もちろん治療するという前提だが、どちらの治療法にするというのはなかなか決めきれない。免疫チェックポイント阻害剤の方が最新の治療であり、総効率も高い。また幸か不幸か僕は再発・転移の腎がんとしては「中リスク」に分類されるため、免疫チェックポイント阻害剤を使えるということもある。しかしやはりこの薬の、頻度は少ないが重篤な副作用の可能性ということと、この病院における治療実績の少なさが、僕に、ここで免疫療法を開始することを、踏みとどまらせていた。

E先生に聞いたところ、さいたま市立病院で免疫療法をする場合の流れは次のようになる。まず治療開始にあたって一週間程度入院し、精密検査を受ける。その後、点滴によりオプジーボとヤーボイという薬(免疫チェックポイント阻害剤)を投与していくが、これが三週間に一度、計4回の投与となる。点滴は外来にて行うが、その間も週に一度くらいは外来受診し様子を見たいとのこと。4回の投与が終わった後は、オプジーボ単体に切り替え、二週間に一度の点滴投与となる。この間に何か副作用があれば、都度受診の上、必要なら入院加療となるらしい。

治療は、基本的に通院で対応可能であるが、それでも結構仕事を休んで通院する必要がありそうだ。

僕はやはり、今回の治療についてはセカンドオピニオンを受けることにした。

セカンドオピニオンを受ける理由としては、まずはこの再発という診断および治療方法の提示に関して、別の医師の所見を聞くこと。それから、免疫チェックポイント阻害剤を使った免疫療法について、その副作用の実際や対処などを含めた、詳しい話を聞くこと。その上で、僕に適した治療法、僕に推奨される治療法というのを、より専門性の高い医師の意見として聞いてみたい。そういったことである。

なので、セカンドオピニオンを受けるに当たっては、腎がん治療の、特に薬物療法に関して専門性が高いだけでなく、免疫チェックポイント阻害剤の治療実績が豊富で、かつ最新動向を押さえているような医療機関が望ましい。否、そうでなければ、セカンドオピニオンを受ける意味がない。また、セカンドオピニオンはあくまでセカンドオピニオンであり、転院を前提としたものではないというのはもちろん理解の上で、しかし正直言うと今の病院の実績の少なさには不安を覚えているところでもあり、場合によっては転院も視野に入れた上で、セカンドオピニオン先を探す必要があった。その観点で、いくつかの病院に絞り込み、実際に電話にて空き状況や料金などを確認した。

実際に候補としたのは、

の三つ。下の二つは手術の時にも候補としたところ。また国立がん研究センターは、腎がんにすごく強いとかではないが、やはり国内で最先端のがん専門医療機関であり、医師のレベル等もさることながら最新情報なども集約されているであろうことを考慮して候補とした。

連絡したところ、いずれも7月二週目には受診可能である。保険適用外となる料金は、国立がん研究センターは1時間44000円。東京女子医科大学病院は30分22000円、以降15分刻みで1時間だと同じく44000円。埼玉医科大学は30分11000円、1時間22000円。埼玉医大だけ安いが、これは東京と埼玉の差なのか?まあ、セカンドオピニオンの相場感はわかっていたのでこんなものかという感じ。料金で決めるわけではないのであくまで参考程度に。

どこも、これと言った決め手はないが、転院まで視野に入れると埼玉医大はやはり遠い。国立がん研究センターに魅力を感じつつも、東京女子医大のアクセスや実績も捨てがたい。ちょっと、いやだいぶ迷ってきたが、週明けの月曜には電話予約をしたい。どこにしよう。

そんな感じで迷っていると、妻が、腎がんでの免疫チェックポイント阻害剤を使った治療に関する解説動画をネットで見つけてきた。かなり詳しい内容で非常に参考になったのだが、この動画で講義をしている医師が東京女子医科大学東医療センターのK教授という方。腎がんの治療でかなり有名な方のようである。腎がん治療、特に薬物療法の最先端で治療と研究を続けている。相当な数の患者も見てきているらしい。この動画も、まさに僕が知りたい内容の話だ。

腎がん~腎がんでつかう薬物の最新情報~

東京女子医科大学の、東医療センター。住所は荒川区の尾久。意外と近い。あるのは知っていたが、本院ではないし正直ノーチェックだ。こんな有名な先生がいたことも全く知らず。先に候補としていた病院は有名かつ大きな病院だが、特定のこの先生、というのが個人的にあるわけではない。なので正直どちらにするか迷っていたのだが…このK先生は、良いかもしれない。いや、この先生に診てもらおう。ホームページでチェックを入れた後、すぐに病院に電話をかけセカンドオピニオンについて問い合わせたところ、他の3院よりも早く予約ができるではないか。妻とも話し、ここでセカンドオピニオンを受けることに決めた。7月3日の水曜日、セカンドオピニオンとなった。

当日、妻とともに東京女子医科大学東医療センターを訪ねた。場所は田端からタクシーか、都電荒川線の宮ノ前という駅から徒歩。

K先生はおそらく僕より何歳か上であろう。優しそうだが的確にわかりやすく話をしてくれる。診断としては、やはり僕の再発については薬物療法が適切であろうと。分子標的薬か免疫チェックポイント阻害剤という選択肢で間違いない。なお、再発だからといって、必ずしも切除がないわけではなく、再発したがんのタイプによっては切除できる場合もあるそう。腫瘍がまとまってひとかたまりになっているようなケースでは切除という選択肢もある。やはり、腎がんでは「切れるものは切る」というのが基本とのこと。ただ今回の僕の場合は、前にも書いたとおり、ぶどうの房のように組織に染み込んで腫瘍ができているので、そこだけ切除というのが難しい。取り切れない可能性が高く、薬物療法ということになるのだそうだ。

そしてK先生いわく、「あなたの年齢や体格から、そして体力もありそうだし、免疫チェックポイント阻害剤の使用を勧めますよ。」

そう言ってくれると、踏ん切りも付けやすい。治療内容についても確認した。

「うちでの治療は基本的にすべて外来で行います。入院などは不要。検査等は行いますが、外来で可能。通院も、点滴時のみで大丈夫です。オプジーボとヤーボイ併用で計4回投与した後、一度CTを撮って効果を見ることになる。」

あれ。だいぶ違うんだ。これなら仕事への負担もかなり減る。やっぱり患者も多くて慣れているからかな。

それから、僕は、副作用についての不安を正直に話す。

「副作用はあるけど、症状が出たらすぐ受診して適切に処置すればそこまで心配するほどではない。基本的にはステロイド剤を投与する形になる。」

なるほど。少し安心。また、今の病院で症例が少ないことも心配であると告げる。

「そうですか。それは確かにちょっと心配かもしれないですね。うちは治験なども合わせて100人以上診てますから。結構遠くから、北海道なんかからもいらっしゃいます。」

100人以上!それは安心度が全く違う…

「心配なら、うちに転院ということでも良いですよ。問題ありません。なんなら今日ここで、検査と初回の外来を予約しちゃいますよ。点滴始めるのも、来週からでもできます。」

まじですか。先生、話も仕事早い。もう、ここまで僕と妻二人で話を聞き、言葉は交わさずともお互いの気持ちは一致していた。ここなら自宅からも遠くなく、無理なく通えることもあり、

「ぜひ、こちらで免疫療法での治療を受けたいです。お願いします。」

と告げた。

その後、次回外来と検査の予定をその場で入れてもらう。今日が7月3日水曜日で、明後日5日金曜日には市立病院にセカンドオピニオンの結果を持っていく予定だから、その後ということで、翌週の8日月曜日に検査となった。CT検査室ほか各所に電話して予約を入れてくれるK先生…かなりの豪腕である。患者に対する印象とだいぶ違って、結構怖い…(笑)だけどむしろ、僕個人的にはすごく頼りになるのだけれど。

オプジーボとヤーボイ併用の間は、2剤使うので点滴に3時間ほどかかる。点滴の前に血液と尿検査を行い、結果を見て診察してから点滴となります。」

3時間は長いなあ。タブレットに映画をダウンロードして行くようにしよう…

そして、

「これは個人的な、私の経験からの印象ですけど、fling_tさんのようなタイプのがんは、免疫チェックポイント阻害剤が効きそうな気がしますよ。うん。」

これは、ある程度僕を勇気づける意味もあってのことなんだろうけど、正直嬉しいし治療へ前向きになる言葉だ。最後にこれを聞いて、二人ともかなりの安心感を得て、診察室を後にした。

帰りに田端駅で妻とお茶しながら、いろいろと話した。そう、今回の再発については、まだ子供たちには言っていない。きちんと話すつもりではあるが、治療方法や転院先などが確定してから落ち着いて、と思っていたので、自宅だとあまり妻ともこの話題を話せないのだ。

とにかく二人とも、今朝までとは明らかに違って、すごく安心した気持ちでいた。再発が判明してからは、最初にがんが発覚した時に比べれば落ち着いていたし冷静にセカンドオピニオン先を調べたりしていたものの、再発という見通しの暗さもあってかなり暗い気持ちであったし、この先への言い知れぬ不安感などが重なりどうにも重い、苦しい気持ちであった。そこから比べて、今は何か自分の病状が変わったわけでも状況が好転したわけでもないが、不思議な安心感と、ここで治療やっていこう!という決意?のようなものが、感じられていた。たぶん妻も同じような気持ちだったと思う。

とにかく、ここで治療を受けることに決めた。後は前に向かって進んでいくしか、ないのだ。