腎がんなんて俺の人生に何の関係もないと思っていた

平成30年に腎がん(腎臓がん・腎細胞癌)が発覚してから、僕の治療と生活と仕事の記録

免疫チェックポイント阻害剤の効果

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オプジーボとヤーボイの併用療法、4回目の点滴投与が終了した。そこからさらに3週間空けた10月9日の水曜日、オプジーボ単体での点滴に切り替えるとともに、それまでの治療効果を確認するため、造影剤を使ったCT検査を実施した。

ここまで、前回も書いたとおり、痒みが増した以外は特に気になる体調変化はなく、体調的にはむしろ順調で食欲も旺盛。逆に言えば、そういうものなのだろうが、治療をしているという手応えがない。効いてるんだか効いてないんだか自分では全くわからないので、それはそれで少々不安というか、今どういう状況なんだろう?という気持ちが少しあった。

当日はオプジーボ単体の点滴投与とCT検査を同時に一日で行い、結果まで聞くという少々忙しい流れだ。病院に着いてからのスケジュールは、

血液・尿検査→検査結果待ちの間にランチ→オプジーボ点滴前の問診→オプジーボ単体の点滴→CT検査(造影剤あり)→検査結果待ち→CT検査の結果を聞くための診察

である。朝10時頃に病院に行き、全部終わったのが午後4時頃。最後のCT検査結果を聞くタイミングで妻も合流し、二人でドキドキしながら話を聞くことになる。

CT検査の前に、まずは本日のオプジーボ。点滴前、K先生による診察にて血液検査などの結果を確認したのだが、血液検査の結果で少し気になる点があった。甲状腺ホルモンの関係の値が下がっているらしい。甲状腺…とは何ぞや。具体的には「freeT3」「freeT4」「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の3つが低下しており、チラーヂンという薬を処方される。一日1錠飲んで値を上げていくということだ。この薬は人間の体に元々ある物質なので副作用はないらしい。この程度であれば、オプジーボ投与はそのまま継続できるとのことで安心。

さてCT検査。毎回思うが造影剤が体に入る瞬間のなんとも言えない感覚。生暖かい感覚がぞわーっと体内に広がっていく。何度もやってるが、慣れるものではないなあ。

CT台に仰向けになると、胸部から腹部にかけて撮影するため、両手を頭の上に伸ばすよう指示がある。が、ここで問題が発生した。実はこの時、2ヶ月ほど四十肩(そろそろ五十肩か?)に悩まされており、右肩が上がらない状態であったのだ。油断して上げようものなら結構な痛みが走る。一瞬どうしようかと思ったものの、CTスキャンはすぐに終わるだろうと思い、特に申告せずに腕を上げたら大失敗。造影剤を入れての撮影ということもあって結構な時間がかかり、途中から痛くて半泣き状態…だが、何とか検査を終え、診察室前に移動して呼ばれるのを待つ。

先ほど書いたとおり、約2ヶ月間で4回の点滴治療中は体調も良かったのだが、CT検査が近づいてくると、どうしてもいろんなことを考え始めてしまう。最悪でも腫瘍が大きくなってなければ、現状維持なら効果は出てると言えるよな、とか、せめてちょっとくらいでも小さくなってると良いな、とか、逆に全く効果がなくて大きくなってたり、さらには転移してたり、あちこち転移してどうしようもない状態になってたらどうしようとか。もしそうなら次は何の薬を使うんだ?分子標的薬?どうなるの俺?等々。想像力豊かに、思いが浮かんでは消えていく。おそらく妻も同じ気持ちだったんじゃないかなと思う。もちろん僕には見せないのだけど。

外来フロアでもそんなことを考えたり、喋って気を紛らわしたりしながら過ごした後、名前を呼ばれた。

二人で診察室に入って座ると、K先生がいつもどおり話し始めた。僕は先生の表情から何かを掴み取ろうとしたけれど、わからない。早速、画像を見ながら説明を始めていく。最初に前回の画像を確認しつつ、

「ここに8センチほどの腫瘍がありますよね、この部分にぶどうの房状にね、ほら…」と、K先生が話す。

うんうん、そうっすね、これですよね…写真は左右逆に写っていて、左側に右の腎臓があり、右側は左腎臓を摘出した後がなにもない状態で、その部分を埋めるように腫瘍がある。

次に、その左側に今回撮ったCT画像を並べて確認する。前回の画像と同じ角度で写し出されている。

「こちらが今日撮った写真。ここのところ見てください。」と、K先生。

はあ。

「何もないでしょ。」

はあ…ないです。ないですねえ…(ポカーン)

「そう!消えているんですよ。腫瘍が。目視できるレベルでは、全く(腫瘍が)ありません。もう一つここにも2センチほどの大きさの腫瘍があったけどそちらも消えている。現時点では、消失したということになります。」

 

ええええええええええええーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

まじか。

 

こんなこともあるのか。効いてたら良いな、とは思っていたけれど、ここまでとは…免疫チェックポイント阻害剤恐るべし、である。

なお、同時に肺や膵臓など他臓器も確認し、現時点で転移も見られないということだった。

「fling_tさん、これ写真撮っといた方が良いですよ。ぜひ記念に。」

お言葉に甘えてスマホでパシャリ。

せっかくなので、その画像は晒しておく。2枚の写真が横に並んでいて、右の写真が治療前(7月8日)、左側が当日(10月9日)に撮ったもの。間違い探しの要領で比べてみると、7月8日時点では脾臓が腫瘍に隠れていたのが、10月9日の写真では腫瘍が消え、見えるようになっている。

(上が解説入り、下は元画像)

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そして、K先生がPC上でカルテに「腫瘍8センチ→0、2センチ→0」と打ち込む。それを横で眺める。

 

ということで、現段階では、腫瘍が消えた。

 

先生いわく、少ないけれど、こういう例はあるのだそうだ。体質やがんのタイプなどで効く効かないの個人差が相当にあるらしいが、僕の場合はその相性が非常に良くて、免疫が活性化され、がん細胞を効果的に攻撃できたということ。

また、それに加えて、特段の副作用なく4回の投与を終えることができたことも大きいそうだ。そもそも、副作用のため投与が中断・中止になってしまって、効果が出るところまで辿り着けない人もいるわけなので…

K先生も、慣れているとはいえさすがに驚きの表情(だったと思う)。前に書いたかもしれないが、治療開始前に「経験則ではありますが、fling_tさんのようなケースには結構効くような気がしますよ」と言ってくれていた。その時は、もちろんそう言ってくれることは嬉しいけど、患者を勇気づけるためというのもあるし、話半分に受け止めていた。それが本当に効くとは、自分自身でも思っていなかったのが正直な気持ちだ。

何はともあれ、まずはひと安心である。良かった。妻と二人、喜びと安心を噛み締めつつ、そして若干浮足立ちつつ、冗舌になりつつ、会計を済ませて薬を受け取り、帰途についた。母親からフライング気味に電話が来ていたので(笑)そちらにも一報を入れる。

ちなみに、今後もオプジーボは継続していく。目視では腫瘍が消えたものの、細胞レベルではまだ残っている可能性があるので、継続治療の必要はあるとのこと。当然だろうな。

 

なお、全くの余談だが、診察前に外来フロアにて偶然友人と出会った。会社の同期。実は彼も腎がん経験者で、僕よりもだいぶ前に手術をし、今は年一回の検査のみなのだが、彼も主治医がK先生で、かつその日が年一回の検査の日であったのだ。しかも、彼には再発のことまでは話してなかったし、お互いにK先生が主治医ということも知らなかった。本当に、何という偶然。積もる話もあったので、軽く一杯。

 

以上、長い一日が終わった。帰宅しても軽く興奮状態だ。もちろん子供たちにも免疫チェックポイント阻害剤の凄さをとうとうと解説したのは言うまでもない(笑)

人の気持ちというのは現金なもので、今日の結果を受けて、いろいろなことにモチベーションが上がってきた。仕事、趣味、その他いろいろと。この病気に罹ってからというもの、事あるごとにメンタルが上がったり下がったりしてきた。嫌なんだけど、付き合ってくしかないんだなと、この頃は思っている。

そんなことを考えつつ、この時点では気にしていなかったのだが、実はちょっとした症状を感じ始めていた。この日のオプジーボ投与と前後するタイミング、週の頭くらいから、軽い頭痛と筋肉痛が出始めていたのだ。元々軽い頭痛持ちなのと、週末に庭の手入れで草むしりなどしていたから筋肉痛はそのせいかな、などと軽く考えていたのだが…これが大変なことになってしまうとはこの時は全く想像していなかった。